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霧の万年床〜楠 均のBGM日記2007/8 | ||||||
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2007/9 | ||||||
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猛暑の中、ダニ猛然と繁殖。ホコリ1gにつき7000匹。うじゃうじゃと畳を埋め尽くす。(のが私には見える。)数年前の夏にひどい目にあった。以来、ダニは問答無用の天敵となる。何がどうひどいって、とても公の場で語れるものではない。皮膚がおぞましいことになる、としか言えない。どうしても知りたいという方は、日野日出志という漫画家の七色の亀の物語を読んでいただきたい。ダニとは無関係なお話だがイメージはぴったりである。体中から七色の膿が噴き出して止まらなくなった少年が、やがて池で七色の亀となって発見される、という以上のことはおぞまし過ぎて申し上げられない残念だが。呆然とするほど気持ちが悪く、その上悲しくておまけにカラフルでもあるという、夏の読書にお薦めしたい1冊だ。(単行本化されているか知らない。)
毎年夏が来ると、ダニに対する警戒心が他のあらゆる情熱を凌駕する。この暑さの中で何も手を打たなかった日には、ある朝私は寝床の中で七色亀だか七色仮面だか七色蛙だかに変身して、家族の恐怖と憎悪の的となり、その非常識な叫び声によってあえなく頓死するだろう。そういえば蛙は愚かなる婦女子の忌み嫌うところであるのに、虹は暫くうっとりと目を楽しませた後、音もなく蒸発しては愚かなる家族にも喜ばれるかもしれない。ちょっと字をいじっただけで何たる扱いの違いであろう。蛙になってぎゃあぎゃあ騒がれるのは堪まらないが、うっかり虹などになってみすみす家族を喜ばせるのは更に心外だ。とにかく虹でも蛙でも、ある朝「七色(の何か)」になってるのだけは勘弁してもらいたい。「くわばらくわばら(一体どういう意味だろう)」そう念じながら畳の目という目をしらみつぶしに掃除する。しかしダニはしらみつぶし程度ではつぶせない。それ程に小さく強靭であるので「しらみつぶし×2」という作戦に出る。「×2」はハードな作戦なので、体中の水分が畳に落ちてじゅっと音を立てる。室温計はあろうことか40度を示している。ここはタクラマカン砂漠かと思う。意識を失う前に事を急がねばならぬ。次に沖縄産の月桃(げっとう)という植物から抽出した液体を散布する。月桃は人にやさしくダニにきびしいと聞く。惜しげもなくドバドバ撒く。そう言えば、ドバイでは6月に50度を記録したという。ドバドバである。
さて、物干から取り込んだ布団は焼きたての煎餅のように熱くなっている。この煎餅布団に対しても作戦「×2」を実行する。既に気は遠くなっているが、掃除機内の灼熱地獄の中で100万匹のダニたちが昇天している様を想像するとヌスラッと笑みがこぼれる。あらぬ方から亡くなったヌスラット・アリ・ファテ・ハーンはんの声が突然聞こえてくる。そして稲妻のように私の背中を打つ。罪深き者よ、己の残虐を深く恥じよ。そう歌っているのか?(いずれにしても掃除機をかけながらラジオを聞くのは止めよう。音がケンカして狂死しそうになる。)
さて、完璧に仕上がった布団を椅子の背にかける。その日の天候や時間帯によって湿度が異なるのでそれによって窓の開け具合、布団の位置を微妙に変える。一連の作業に疲れきって死んだように眠る。と、とっくに日は暮れ、「あっ」と叫んだ時にはせっかくの布団が陰惨な湿り気を帯びているではないか。全身から血の気が引く。家族たちは何をしている、暢気に野球中継を見ている。一体どういう神経か。大作戦の意味が全くわかっていない。全隊一丸となって取り組まねば勝利は覚束ぬ。お前たちが無責任なばかりに、これこのザマだ。ああもう、ちょっとこの布団に触ってみなさいよ。取り乱して涙声がうわずる。家族は「わー焼きたての煎餅のようにパリパリだ」などと笑っている。計り知れぬ鈍感さ。もう勘弁ならぬ。ネズミ男怒りの往復ビンタ炸裂、ビビビビ。目玉親父怒りのファルセット炸裂、ヒャヒャヒャ。水木名人おなら炸裂、ナァプ〜ン。(そうだ、今夜は水木さんのTVドラマ「鬼太郎の見た玉砕戦」を見なくては!)嵐のような叱責のすべてを聞き流しソーメンを食べていた家族が、「うちの布団は高松塚古墳より大事にされてるね」と言う。虚を突かれた。以後我が家では布団を国宝と呼ぶことにする。
さて夜が更けて一匹もダニがいなくなった天国のような寝室に異臭が立ちこめ、目が覚める。月桃らしい。名前が示す通り、月の桃のような良い匂いだが、あまりに大量に撒いたためもはやそれは激しく鼻孔を責め立てる毒ガス以外の何ものでもない。天国一転して戦場となる。まったく何が災いするか分からない。水木さんたちの見た本物の地獄を思い、暫く忍従したが猛烈な頭痛堪え難く、ついに逃げ出して台所で水を飲む。もう戦う気力もなく、ただへたりこむ。こんな時にはウォーの「世界はゲットーだ」。そうさ、たとえこの世は天国でなくとも少なくともダニ地獄からは救われたはずさ、というようなメッセージを聞き取る。力強い音楽に慰められる。戦争という名のバンドが残した芯の明るいグルーヴに、歯を食いしばるような窮屈さは微塵もない。未来のダニ退治はこうでなくてはいけない。
(余談だがダニー・ハサウェイの「ザ・ゲットー」はどう解釈したものだろう。偉大なダニーは実はダニの兄ィだろうか。そしてダニィが月桃を歌うのか。世界は複雑だ。)
コメント
これは
月琴
です。