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霧の万年床〜楠 均のBGM日記2006/9 | ||||||
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翌日の仕事の道具を揃えるというのは段取り下手な私にとって気の重い作業のひとつです。苦痛を和らげるために何か音楽をかけるなどします。たまたま先日はそのBGMがデューク・エリントンでした。
古いジャズの録音には時折理解に苦しむほどの綾(アク?)があって、同じ古い米国の音楽でも素朴なカントリー・ブルースなどはずっと耳馴染みがいいのですが、ややしばらく我慢していると「A列車で行こう」がかかってホッとします。「A列車」は曲もアレンジも特Aです。
気持ちがぐっと上向いたので翌日の準備は翌日に回して、しばらく古いレコードやカセットを聴くことにしました。部屋にCDプレーヤーがないのでそういうことになるだけの話ですが、じっくり腰を据えて聴く時、レコードはやはり気分が出ますですねえ。じっくりという割にこの日のように3曲ずつしか聴かないにしても、針を持ち上げてレコードに傷つけないように次の曲にそっとしかも素早く針をおろす動作には無意味だけど侮れない楽しさがあります。犬のように不器用な人間が長年の習慣で人間らしくなれることを実感するひとときでもある。(そこへいくとCDプレーヤーのボタンなんて犬でも押せるでしょう。)音楽に携わっている割に僕のコレクションは貧弱というか少なくて、たとえばこの日のようにジャズを聴きたいと思ったとき極めて限られた選択肢しかないのですが、その分迷う手間が省けるともいえるでしょう。
大好きなジェリー・マリガンがアレンジャーとして関わったビッグバンドのボスは、ジーン・クルーパーという人で、この人は私の母が娘盛りだった頃にはドラマーの代名詞だったようで、ソロなど始まろうものならキャーキャー騒がれたものです(たぶん)。母は私が東京でドラマーで身を立てると聞いた時、きっと元気はつらつなジーン・クルーパーを思い浮かべたに違いなくて、それは彼女をかなり幸せな気分で満たしたことでしょう。そう思うととても申し訳ない気分になります。
マリガンは、バリトンサックスというサイのオナラのような音のする楽器の名手であると同時に、信じられないほど才能豊かなアレンジャーでもあります。1950年前後、彼は信じられないほどの量の仕事をこなしています。ひょっとするとずっと忙しかったのかもしれません。だって若死。といっても60歳くらい。この時代のミュージシャンとしては普通か。マイルス・デイビスの「クールの誕生」にも参加してます。「クールの誕生」がまた信じられないほどカッコいい。キラキラ輝く楽想はアイディアに満ち、退屈なところは一点もなく、全員一丸となって疾走するのですが、しかしなるほどクールで涼しくて厚ぼったいところは微塵もない。革新的なことをやっているんだという気概がびしびし伝わってきて実に爽快です。
英語のライナーノーツの英語を読み飛ばして人名と数字だけを拾うと、この時マイルス22歳、マリガン21歳、リー・コニッツ21歳、マックス・ローチ24歳、カイ・ウィンディング26歳、ギル・エバンス36歳で一番年寄り、と読めます。(マリガン、ゲッツ、ミンガス、パーカーと呼ぶのに、どうしてマイルスだけファーストネームなのか?ビートルズのメンバーじゃないのに。)ロックスターの年齢には敏感だった私ですが、ジャズはおっさんの音楽というロック社会の通念に従っていたため、まさかジョンより若くしてこの人たちがとんでもないことをしでかしていたなんて思いもよらないことでした。みんな同じ時期にどばっと生まれて、ガキの頃から悪い道に入って、ボロボロになるまで音楽をやって比較的あっさりとこの世からおサラバしている、そんな感じです。
エリントンは「デューク」と呼ばれていたので、次に私はマイルスの Miles Aheadに収められているThe Duke を聴きます。ジャズ史上もっともヒットした曲らしいTake Fiveの作曲者デイブ・ブルーベックが ,このThe Duke を書いたのだと今回初めて知りました。実にいいムード、アレンジはギル・エバンス。卒倒ものです。
The Sound Of Milesというタイトルのビデオの中でもこの曲は演奏されています。ギル(めんどうになってきたのでファーストネームです)は馬蹄形に並んだバンドを指揮しています。くたびれたネクタイ姿の、「人種的偏見に満ちた刑事」風の男が司会者で、黒板にイタめし屋の今日のメニューは・・・みたいに曲目と演奏者を書き連ねたのを、灰が落ちそうなタバコで持って指し示し、みりゃわかるだろうなんて感じで愛想笑いのひとつもないのです。こんなレストランには行きたくないですね。みんなスーツで決めてタバコ喫ってる。時代です。マイルスなんてコルトレーンのソロの間タバコ喫いながら立ち話してる。悪人です。構成もカメラワークも失禁ものです。監督はジャック・スマイト。この人の撮ったポール・ニューマン主演の「動く標的」の冒頭は空腹を忘れるほどカッコいいです。暑い夏の朝、ゴミゴミした都会のアパートの一室で目を覚ましたニューマン演じる探偵は、二日酔いで頭がガンガン痛くて、ランニングシャツ姿です。コーヒーが無性に飲みたいのですが、どこを探してもコーヒーがないので、仕方なくゴミ箱から昨日のヤツをペーパーフィルターごとつまみ上げてドリッパーにセットしてため息をつく。こういうことやらせると本当にカッコいい人ですね、ポール・ニューマン。60年代のカラー具合と、ハリウッドっぽいジャズは相性がいいというか、実際よく使われたのだと思います。「おかしな二人」のニール・ヘフティとか毛色は違うけどレッドフォード主演の「ホットロック」のクインシー・ジョーンズとか(いずれも記憶違いの可能性あり)。ホットロックのテーマを吹いているのはマリガンじゃないでしょうか。知っている人がいたら教えてください。でも動く標的の音楽がどうだったかは覚えていません。ちなみに冒頭のシーン以外も忘れました。(ちなみに続編の「新・動く標的」には推定年齢15歳のメグ・ライアンが頭のいかれた甘ったれのふしだらな娘という役柄で出ていて、その後の人生を決めてしまうようなはまり役でした。あまりふしだらなので、名前が知りたくてロールを一生懸命探しました。ああメグのことは何も知らないのに俺って偏見に満ちていますね。)
長くなったので続きを次回書きます。
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