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MAL Antenna - recommuni version2007/9 | ||||||
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すばらしく贅沢なアルバムが生まれた。岩崎宏美のニューアルバム「プラハ」である。タイトル通り、チェコのプラハにあるドボルザーク・ホールにおいて、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏をバックに収録されたアルバムだ。「フルアコースティック、出来ればオーケストラバックのアルバムを作って欲しい!」というのが美声のポップス歌手・岩崎宏美に対する私の願いだったのだが、なんと今回それが実現してしまった。
最近のシングル曲や昔のヒット曲など全12曲が取り上げられているが、これは単にオーケストラをバックに歌ってみた、というレベルのアルバムではない。あたかも1回のステージ演奏のように、オープニングからエンディングまでを計算して組み立てられたアレンジ、演奏となっている。
オーケストラの編成やフィーチャーされる楽器は曲ごとに異なる。「思秋期」ではピアノ、「手紙」ではオーボエ、「シンデレラ・ハネムーン」ではなんとコントラバス(!)、「万華鏡」ではチェンバロ(あのイントロが生チェンバロ!)、「すみれ色の涙」ではクラリネット、といった具合。オリジナルよりゆったりしたテンポで歌われる曲が多いが、逆に「思秋期」はかつてないほど早いテンポで歌われる。
曲の順番もかなり計算されていると思う。
パーカッションが入った曲、特にシンバルが鳴る曲はオープニングの「聖母たちのララバイ」、ミュージカル「レ・ミゼラブル」でのファンテーヌ役で歌った「夢やぶれて I Dreamed A Dream」、そしてエンディングの「つばさ」の3曲だけである。アルバム全体を通して、フルオーケストラ(60人編成)が最も鳴り響くのは「つばさ」のエンディングだろう。
これまでコンサートでは何度もエンディングを飾ってきた「聖母」でアルバムは幕を開ける。アレンジもオープニングにふさわしいイントロを持ち、クライマックスもやや力を残した柔らかさに仕上げられている。続いて最新シングル曲「シアワセノカケラ」、そして有名どころの「思秋期」を挟んで「夢やぶれて」「手紙」、と曲調が少し変わったところで最初の大ヒット曲「ロマンス」と進んでいく。
そこからシングル曲「好きにならずにいられない」「シンデレラ・ハネムーン」「万華鏡」「すみれ色の涙」とヒット曲で畳みかけるペースは、まさに岩崎宏美の近年のコンサートの構成を思わせる。ただし、アレンジはかなり違っている。中島みゆき作による近年のヒット「ただ・愛のためにだけ」をオリジナルより軽快に歌い、ラストはレミゼ仲間だった本田美奈子の曲「つばさ」となっている。
アレンジだけでなく、岩崎宏美の歌声も曲によりかなり違う。これまでも年月とともに歌い方は変わってきているが、今回はオーケストラとの共演、別アレンジ、アルバム全体の構成などを意識したのだろう、これまでにない歌い方になっている曲ばかりである。
ブックレットには曲ごとに岩崎宏美本人がコメントを書いているのだが、今回のレコーディングは3日で終えたとのこと。ご本人がおっしゃる通り、奇跡かも知れない。1日で3曲とか6曲とかのハードスケジュールだったそうだ。
この贅沢なアルバムから、1曲選んでご紹介するとすれば、私なら「好きにならずにいられない」だろうか。3拍子のこの曲、オーケストラがとても優雅なワルツを奏でており、まずその響きが素晴らしい。岩崎宏美の歌声も、優しく明るく響かせることに気を遣っているようで、アルバム中でも群を抜いて美しい。
最後に。
このアルバムは2007年8月1日に亡くなった作詞家の阿久悠に捧げられている。