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recommuni四方山話ドラムをやっていたから、リズムはだいたい読めても、音階はぜんぜん。楽譜を見てすぐ弾ける、これを「初見が利く」というが、そういうのを見るとすごいなー、と思う。訓練によって、オタマジャクシの位置とその形で、何をどう弾くかという運動神経がすぐさま反応するんだな。
だけど一方、楽譜は読めないけどすごく上手なミュージシャンもいっぱいいる。楽譜なしには考えられないクラシックのミュージシャンは、逆にアドリブが不得意だったり、コードしか書いてないとどうしていいかわからない(むしろコードを知らない)という人もいて、このへんが音楽のおもしろいところでもある。
やはり理屈から入る人が多いのだろうか、日本人だと、特にプロの場合はある程度読めないと仕事にならない、ということもあって、オタマジャクシまで初見ができなくても、コードやリズムや進行くらいはほとんどのミュージシャンが解る。
ところが欧米は違う(他は知らない)。むしろ読める人が少ない。
土屋昌巳さんの担当をしていたころ、彼のレコーディングでロンドンに行ったときの話。
土屋さんは一時JAPAN(バンドだよー)に参加していたくらいだから、そのメンバーたちと仲がよい。ベースのミック・カーンに演奏を頼むことになった。レコーディング予定日の3日くらい前に、ミックにベース抜きのラフミックス・テープを渡す。土屋さんは何も説明しない。「彼は完璧に考えてきますから」と言う。
当日になり、ミックがスタジオに現れた。しばし談笑した後、ベース・ギターをセッティング。「さあ、一度合わせてやってみようか」、エンジニアがマルチ・テープをスタートすると、なんとなんとなんと、曲の頭からおしまいまで、一音のミスもなしに完奏してしまった。しかも譜面も見ず、例の、知ってる人はわかるだろうけど、彼にしか思いつかないようなユニークでかっこいいフレージングで。
「彼は完璧に考えてきますから」という土屋さんの言葉は大げさでも何でもなく、むしろ控えめな表現だった。だって彼は「完璧に考えてきた」だけではなく、さらにそれを「完璧に憶えてきた」のだから。一言の指示も注文もなかったのに、もうその曲にはそれしかないというような、この曲はベース・ラインから作りましたと言っても誰も疑わないような、すばらしいフレーズを、それをもう何度もプレイしてきたような手慣れた指運びで淡々と弾く姿に、ボクはもうまいってしまった。世の中は広い。すごい人がいるわ……。
実はほんとに驚いたのはそのあとなんである。
ある一箇所だけ土屋さんはフレーズを手直ししようと思った。それを彼に伝えるのだが、譜面は読めないみたいなので、フレーズを歌いながらある音を、「Gに変えてくれ」と言った。そうしたらミックは「Gってどこだ?」って聞き返した。
皆さん、ベース・ギターのGはどこかボクでも知ってますよ。それを天下の、JAPANの、男前の、凄腕ベーシストが、Gがどのフレットなのか知らないんですよ!
もちろんバカにして言ってるのではない。
Gがどこか知らないということは、ある音を弾いてもそれをAとかCとかの「言語」にしないということだろう。フレーズを考えるのも、耳と指と記憶だけでやっているのだろうか。そうしてでき上がったフレーズを、曲の構成まで含めて完璧に憶えこむなんて、凡人のボクには、想像もできないくらいたいへんな作業だとしか思えないが、彼の場合、そういうことが得意な脳ミソの構造になっているのかもしれない。
でも、個人の才能ももちろんあるだろうが、そもそも楽譜を使わないで音楽のスキルを高めていくという環境が、日本のような普通に楽譜ありきの環境とは、全く違う音楽の捉え方を育むのかもしれない。ミック・カーンのようなやり方は、向こうではよくあることなのかもしれない(ただ彼ほど完璧なプレイヤーは他に知らないけどね)。
どちらがよい悪いではないけど、やっぱり海外に個性的なミュージシャンが多いのは楽譜という「マニュアル」を使わないからではないだろうか?
2005.05.09
福岡智彦
コメント
僕は譜面もロクに読めないので、あの才能には憧れます。