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霧の万年床〜楠 均のBGM日記2007/3 | ||||||
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巨大なものが大好きなピアニストであり、且つ古の英国紳士のようなユーモリストである草君に巨大な東京タワーのふもとで会った。
僕「どう、元気なの?」
草君「いや、べつに。」
僕「まぁ久しぶりでもあるし、一応握手ぐらいしとく?」
草君「まぁ、握手くらいなら・・・。」
彼とのやりとりに僕が期待する煮え切らなさが凝縮されたようなぬるい握手を交わし、僕らはスタジオに入った。休憩時に出るのはやはり巨大なものの話。久々に見たグラビア雑誌の巨乳に目が釘付けになり「す、すごいね。さ、三十年前といっしょだよ。こ、こういうものは永遠不滅なんだね。」と興奮する僕を明らかに蔑みながら生命の営みについての自説を手短かに披瀝した草君は、しかし巨大なものの話を巨乳レベルで語ってもらっては困る、という内心の憤慨をウィンストン・チャーチルのごとく露わにして矢継ぎ早に繰り出す。ギアナ高地の滝の話、600mを超えるらしい第2東京タワーの話、まだ見ぬ牛久観音の話など。一息ついて、冷めた煎茶のティーバッグを引き上げ、煙草に火をつけると、コナン・ドイルのごとく僕を正面からにらみ据え「富士山が見える最も遠い場所はどこだと思います?」と鋭く問う。忙しい(いや私はそうでもないが)日常の雑事にかまけてつい直視しないで済ませている大問題を突きつけられ、さすがの私もたじろぐ。
「く、草君はどう思う?」
こういう時はそのまま返してみるに限る。日本人の愛国意識にかかわりかねない巨大問題である。慎重さを要する。
僕は、ホームズのごとき屈折した、しかし見ようによっては稚気溢れる勝利の笑みを予想して、草君の表情をうかがう。しかしそこに僕が見たものは、浮気をスクープされたブレア首相のごとき苦渋の色だった。草君は力なく言った。
「実は僕にもわからないんですね。」
「・・・(なーんだ)。」
その後我々は様々な仮説を試みたがどれも決め手を欠き、こうして愛国的富士山問題は宿題として我々に残された。スタジオの外に出るとすっかり日は暮れ、列をなして並んでいた観光客の姿はまばらになり、東京タワーはライトアップされてまるで茹でたてのエビラ(注)のように鮮やかに屹立していた。草君しみじみとため息まじりにつぶやく。「やはり東京タワーはいいですねえ。」
(注)エビラは東宝映画「南海の大決闘」に出演。海辺でゴジラと寛いだ感じの死闘を繰り広げている。
追記。この日(か、あるいはその前後)の朝刊(か、夕刊)に富士山と東京タワーがどのくらい遠くから見えるかという記事が載っていてワトソンは仰天した。しんくろにしても、シンクロニシティ。理論上は、とことわった上で、何県の何々という山と具体的に記されていた。早速ホームズに伝えねばと焦るあまり、地名も直線距離も忘れてしまい、新聞は犬の糞とともに捨てられ、そうこうするうちに日常の雑事の向こうに富士山は日々霞んでいく。
ジム・ケルトナーのように叩いてくれと言われたので、どれどれ参考にケルトナーの比較的新しいプレイを聴いてみるとナー。という訳でニール・ヤングのライブDVDを借りてくる。ケ氏はレノンやライ・クーダーのアルバムその他無数の有名レコードで叩いている超大物です。おおらか、しなやか、あたたか、やわらかの「らからか」尽くしなのに、ひねりのきいた小ワザもおいしくヘンタイのようでもある。(今回の僕への依頼もそういう「らからか」なイメージな訳です。)ところがヤング氏のアルバムに聞くケ氏のプレイは、ひねりとヘンタイという部分を残して後は別人のよう。うるさくて音が固い。類人猿としての進化の道のりを激しく逆行するかのようなヤ氏に対して、一騎打ちを挑む大型爬虫類のごとく暴れております。あるいは爬虫類らしい冷血なビートを顔色ひとつ変えずに刻んでおります。まるで「サンダ対ガイラ」。どうも資料の選択を誤ったようです。
誤解のないように言っておくと、そのようなケ氏のプレイも好きです。そして、もはやホモサピエンスには見えないヤ氏の最近の緩みきった音楽にも、抗いがたく引かれてしまいます。前世で何か弱みを握られていたのか。ついでに言えば「サンダ対ガイラ」は好きな映画でした。でもホ乳類対ハ虫類という図なら「フランケンシュタイン対地底怪獣・・・」あー、名前が思い出せない。
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