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霧の万年床〜楠 均のBGM日記2007/3 | ||||||
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三浦半島の先っぽの漁港、三崎に宿をとる人にはよくよくの訳があるに違いない。たとえばマグロの密漁とか。私ら一家にそのような大望はない。ではなぜ三崎なのか。熱海という案もあった。時代から取り残された熱海で湯につかり、終日浴衣を着て怠惰に過ごす。これはよい。しかし値が張る。終日浴衣で過ごすためには風通しの良い木賃宿であってはいけないからだ。それに熱海で木賃宿では気持ちも落ち込む。そこで三崎だ。三崎にそもそも高級宿は存在しない(と思う)。どこに泊まっても同じようなものだからどこに泊まっても寂しくない。海はあるが海といったって港である。およそ人を観光へ駆り立てる要素はない。目と鼻の先には「城ヶ島の雨」の城ヶ島があるが、これとて磯で小一時間遊んだらそれきりすることはない。江ノ島を小さくしたような場所で、商店食堂街もあっけらかんとして野望が感じられず、しけている。しけた町に目的なく滞在するというのはとても贅沢だ。限られた人生の貴重な時間をわざわざ無意味に過ごそうというのだ。僕はその企てに酔った。犬は車に酔った。無学な子供にはその企ての意図が理解できるはずもなく、彼の頭には謎だけが残った。(あるいは、なぜディズニーランドではないのか!なぜジャワ島やハワイ島ではないのか!金がないならないで、なぜおとなしく家で甲子園を見せてくれないのか!という怒りが。)今はそれについて語る暇はない。それよりも君の母さんの裏切りについて話そう。無意味にして無為であるはずの旅に、W(妻)は密かに「目的」をしのばせた。あけてびっくり玉手箱とはこのことである。前夜から一転して気持ちよく晴れた朝を迎え、さて昼食にはやはりマグロかねなどとありふれたことを言ってると、ニコニコ顔のWが「実はねイー店があるのよ。知る人ぞ知る、とっておきの、うまくて安い。しかもしんちゃんの行きつけ、大推薦の店まるいち!」と言ってしんちゃん(いしいしんじさん)の本のページをひらひらとはためかす。うーむ、またしても出たな,
いしいしんじ(敬称略)! しかし、知る人ぞ知るとっておきの、とれたての地魚を食べさせる食堂は魅力だ。三崎ではマグロ以外にもうまい魚がいっぱいとれているに決まっているのであって、お定まりのマグロを、お定まりの有名店で、ボラれるのを覚悟でというのよりは断然興がのる。しかもしんちゃんの推薦付き。妻にとってしんちゃんは旬の大スター。大スターが座った椅子に座って大スターのお薦めのメニューに舌鼓を打つというのはミーハー冥利に尽きる。僕はしんちゃんのミーハーではないが、かつて太田幸司やジャネット・リンのミーハーだったことがありミーハー心は痛いほどわかる。そしてミーハー心のある人間は他人のミーハーにも簡単に伝染する。というわけで、折からの空きっ腹にも駆り立てられた我々は「目的」へ、すなわち食堂「まるいち」へダーッと突進した。ところが「まるいち」の店先に手書きでこう記されているではないか。「定休じゃないけど休ませてもらいます。あしからずー。」ズーにアシカはいないということか。我々は犬も含めお預けを食らった猫のように去りがたく、未練たらしくうろついて本物の猫に笑われる。しっ、しっ。
こうして無目的の旅は目的の侵入によって頓挫する。未開の地が文明とアルコールによって滅ぶように。
コメント
という名前にめまい
(ころびっぷりのいい人だったな)
この間、お友だち(否いつもの人達)にいけさん好きな人多すぎと注意されました...。
三崎は過去に一度だけ赤い電車に乗って海水浴に行ったのですが、あまりの海の汚さにびっくりしました。
いけさん、あなたはミーハー界の聖徳太子ですね。
今はきれいなんじゃないですか、三崎の海。